70歳を過ぎて、人生初の現代アートを作った話(1)ただの円柱が、宇宙になる瞬間
こんにちは。kindle本「理系出身じいじのホットクックでらくらく離乳食/幼児食/絶品パスタ/目の健康に良いレシピ」「理系出身じいじのホームベーカリーらくらく使いこなし術」の著者、生涯挑戦!をモットーにシニア世代と子育て世代を応援する、こうちゃんです。
70歳を過ぎて、まさか自分がアート作品を作ることになるとは思ってもみませんでした。
この夏、人生で初めて現代アート作品を制作しました。3回に分けて、その顛末をお話しします。第1回は「ただの円柱が、宇宙になる瞬間」です。
きっかけは、東京大学のブロックチェーン関連の無料ウェビナーでした。その中にいくつかのスタディグループがあり、そのひとつが「現代アートの制作」というテーマだったのです。
6月から十数名のメンバーで、お互いの作品のコンセプトについて4、5回にわたって意見を交わしました。そこから制作に取りかかり、8月16日の発表に向けて奮闘することになります。
絵画は印象派からシュルレアリスムまで、鑑賞するのは好きでした。ですが、実際に作るのは人生初です。
◾️《帝網》はどんな作品か
完成した作品のタイトルは《帝網(たいもう)──孤立する円柱、共鳴する宇宙──》といいます。
外から見ると、高さ60センチほどの濃紺の円柱です。表面には蜘蛛の巣のような網がかかっていて、その結び目にガラス珠がちりばめられています。
初めて見た方は、おそらく「これは何なんだろう」と思うはずです。


ところが、円柱の上には小さな覗き穴があります。
そこに顔を近づけると、センサーが反応します。LEDがふっと灯り、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲が流れ始めます。
そして、それまでただの円柱にしか見えなかった物体の中に、万華鏡による無限の宇宙が広がるのです。
外から見れば、閉ざされた孤立した一本の円柱。でもその内側には、どこまでも続いていく世界がある。
わたしが作りたかったのは、このギャップでした。
※こちらは制作途中の万華鏡パーツを覗いた様子です。長さ50センチ、一辺113ミリの表面鏡を3枚組み合わせた三角柱で、鏡の中で像が無限に反射します。
◾️発想のヒントは、マグリットでした
きっかけになったのは、シュルレアリスムの画家、ルネ・マグリットです。
マグリットの作品には、本来あるはずの場所から物を切り離し、まったく違う文脈に置くことで、見慣れたものを異質なものに変えてしまう表現があります。「デペイズマン」と呼ばれる手法です。
わたしも「ただの円柱」と「その中にある無限の宇宙」という、本来なら結びつかないものを、ひとつにしたかったのです。
◾️インドラの網と、ブロックチェーン
そしてその奥に置いたテーマが、仏教の「インドラの網」です。漢字で書くと「帝網」。
インドラ神の宮殿を覆う巨大な網があり、その結び目には無数の宝珠がついています。ひとつの珠を見ると、そこには他のすべての珠が映り込んでいる。しかも映り込んだ珠の中にも、またすべての珠が映っている。さらにその中にも世界がある。終わりがありません。
仏教では、こうした世界を「重々無尽(じゅうじゅうむじん)」と表現するそうです。
すべての存在は孤立しているように見えて、実はすべてとつながっている。ひとつの存在の中に全体があり、全体の中にひとつの存在がある。
この世界観を知ったとき、わたしは「これは現代のブロックチェーンにも似ているな」と感じました。
中心に巨大なサーバーが一台あるのではなく、個々のノードがつながり合い、お互いの存在によってネットワーク全体が成立している。
もちろん、インドラの網とブロックチェーンが同じものだという話ではありません。ですが、何百年も前から語られてきた仏教の世界観と、現代の技術が、自分の中では不思議につながったのです。
◾️万華鏡の中に置いた、八つのもの
万華鏡の中で回る皿の上には、八つのものを置きました。
まず、四季です。
桜の押し花が春。緑の葉が夏。紅葉が秋。そして雪の結晶が冬。
一週間で散る桜。ひと夏の緑。数日で色を変える紅葉。溶けてしまう雪。どれも、めぐってはすぐに失われていくものです。
そしてその隣に、石と化石を置きました。
ゼブラストーンは、西オーストラリアのキンバリー地方でしか採れない、約6億年前の縞模様の石です。今年5月にシドニーへ旅行したとき、ブルーマウンテンズの入口の町で15ドルで購入しました。
マラカイト(孔雀石)は銅を含む鉱物で、深い緑の縞が年輪のように重なっています。
オーストラリアンジャスパーは、赤や黄土、紫がまだらに混ざる碧玉です。オーストラリアの大地の色をしています。
そしてアンモナイト。数億年の海を生きて、白亜紀の終わりに姿を消した生き物の化石です。
一年でめぐる時間と、数億年の時間。本来なら決して出会わないものが、同じ皿の上に並んでいます。そして鏡の中で、それらが果てしなく映り合うのです。

◾️10年ぶりの再会が、作品を現実にした
コンセプトは固まりました。ですが、大きな問題がありました。
アイデアがあっても、わたし一人では作れないのです。
特に難しかったのが、作品の中心になる巨大な万華鏡でした。必要だったのは、長さ50センチ、一辺113ミリという特殊なサイズです。市販品を買って終わり、という話ではありません。
「これはどうやって作ればいいんだろう」と考えていた、まさにその時期のことです。
ある音楽コンサートの打ち上げで、一人の後輩と再会しました。会うのは10年ぶりくらいです。
久しぶりですから、近況を話しますよね。すると、その方はなんと万華鏡アーティストだというのです。以前、松屋デパートで個展を開かれたときに見に行ったこともありました。
10年ぶりに偶然会った後輩が、自分がまさに今必要としている「万華鏡を作れる人」だったわけです。
しかも「こういうサイズの、今までにない万華鏡を作りたい」と話したところ、無理だと言われるどころか、「一緒に考えて、知人の鏡の材料屋さんに話してみましょう」と言ってくれました。
この瞬間、頭の中にしかなかった作品が、初めて現実になるかもしれないと思いました。
人生というのは、本当にどこで何がつながるか分かりません。
すべてがつながり合う世界をテーマにした作品を作ろうとしていたら、自分自身が思いもよらない縁によって、作品を作る相手とつながった。
振り返ってみると、この偶然そのものが、すでに《帝網》という作品の一部だったのかもしれません。
◾️まとめ
この記事では、人生初の現代アート作品《帝網》のコンセプトが生まれるまでをご紹介しました。
ただの円柱の中に無限の宇宙を閉じ込めたい。仏教のインドラの網と、現代のブロックチェーン。そして10年ぶりの偶然の再会。
ただ、大変なのはここからでした。巨大な万華鏡をどう作るのか。それをどうやって円柱の中に収めるのか。人が覗き込んだ瞬間にLEDを光らせ、音楽を流すにはどうすればいいのか。
現代アートを作るのも初めてなら、電子工作も初めてです。当然、すんなり完成するわけがありません。
次回は、巨大万華鏡の制作と、そこから始まった電子回路との格闘についてお話しします。








